| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-222

生態系の物質循環機能に基づく生態影響評価モデル

田中嘉成(国立環境研究所)

生態系に対する人為的な影響を評価するうえで最も重要な評価基準は、生態系サービスの基盤を構成する生態系機能の変化である。このような文脈から、生物多様性や機能多様性の生態系機能に対する影響が理論および実験生態学的な方法で検証されてきた。比較的近年になって、生態系機能を担う機能形質に着目し、群集(機能群)内の機能多様性もしくは表現型多様性に縮約した生物多様性の影響を解析するアプローチが試みられるようになっている。機能形質に基づく形質ベースアプローチが有効であるためには、機能形質や機能多様性を生態系機能を反映するように定義する必要がある。

本研究では、生態系の機能として物質循環機能に着目し、1次生産者から高次捕食者に物質が転換される栄養素転流効率 (nutrient transfer efficiency) に影響を与える機能形質が何であるかを、3栄養段階の生態系モデルによって明らかにした。数理モデルは沖域湖沼生態系(藻類、動物プランクトン、魚)を対象にした最小モデル (minimal model; Scheffer [2000]) に栄養素動態を加え発展させたものである。栄養素転流効率は藻類による1次生産力に対する高次捕食者による摂食量の比率と定義した。数値シミュレーションの結果、栄養素負荷量に関わらず、動物プランクトン(中間消費者)の転換効率が大きいほど転流効率は高いこと、富栄養湖(栄養素負荷量大)では、動物プランクトンの最大摂食率が大きいほど高いこと、さらに、動物プランクトンの捕食耐性(捕食逃避能力)に関しては、富栄養湖では高いほど、貧栄養湖では低いほど転流効率が高くなることが示された。物質循環の特性に基づく湖沼の健全性を評価するうえで、1次消費者に着目する中間消費者モデルが有効であること、および、動物プランクトンの機能形質の定義と整理が重要であることが示唆された。

日本生態学会