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一般講演(ポスター発表) P3-223
本研究は個体数変動の法則に関する数理モデル研究で,個体数変動というマクロなレベルの法則を,周囲の個体との相互作用というミクロなレベルから導出するものである.
ここで用いる方法論は,個体数変動の法則をミクロレベルから導出するための手段であるRoyamaによるfirst principle derivationという方法である.First principle derivationは,二つのミクロレベルの関数(個体の散らばりを決める関数と周囲との相互作用による再生産を決める関数)を決めることで,個体群動態の規則というマクロな関数を求めるという方法論である.
それによって新たな個体数変動モデルの導出を行った.導出できた関数は,双安定なダイナミクスを持ちうるHolling Type III関数型である.先行研究では,Ricker modelやSkellam modelなど少数の写像しか導出に成功していないが,我々は新たにAllee効果を含んだ写像の導出に成功したということができる.
経験的にはAllee効果は古くから知られているし,形式的な数理モデルも与えられているが,それを個体間相互作用から基礎付けるというという理論的作業はこれまでになかった.先行研究で導出に成功していたRicker写像は,個体群変動における重要な要因である密度依存効果が組み込まれていた.一方,本研究で導出できたAllee効果はその密度依存効果と対をなす個体数変動における重要な効果である.
個体数変動は密度効果によってもたらされるものであり,周囲との相互作用をもとに個体群動態の規則を決定付ける研究は重要であるが,研究が進んでいるとは言いがたかった.本研究はそれを一歩進めたという意味でも,生態学的にも意義のあるものと考えられる.