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一般講演(ポスター発表) P3-226
北海道に生息するエゾサンショウウオの幼生には、以前から通常の形態である標準型とエゾアカガエル幼生の存在によって誘導される可塑的形態「頭でっかち型」が知られていた。この頭でっかち型は標準型と比較して顎の幅がひろがっており、エゾアカガエル幼生のような大きな餌を食べるのに有利な形態である。近年、この被食者誘導型の可塑性である頭でっかち型の例に加えて、エゾサンショウウオ幼生に捕食者(ヤゴ)誘導型の表現型可塑性が見つかった。この捕食者誘導型の表現型可塑性は、多くの無尾両生類(カエル)の幼生が捕食者(ヤゴ)に対して示すのと同じで、体長に対して相対的に尾高(尻尾の高さ)が高くなる反応である。他の無尾両生類の研究例で報告されているように、この捕食者誘導型の可塑的反応はエゾサンショウウオ幼生においても、捕食者存在下での生存率の向上に有利に働いていると考えられている。
本研究では、エゾサンショウウオ幼生の被食者誘導型形態と捕食者誘導型形態の間に見られたトレードオフの関係を報告する。つまり、標準型のエゾサンショウウオ幼生は捕食者であるヤゴに対して尾高を高くすることが出来た。ところが、頭でっかち型のエゾサンショウウオ幼生は標準型のエゾサンショウウオ幼生ほどヤゴに対して尾高を高くすることが出来なかった。この結果は、大型餌種の存在下で有利な頭でっかち型が捕食者の存在下では逆に不利になることを示している。もっと言えば、2種間(エゾサンショウウオ−エゾアカガエル)の食う食われるの関係で有利な可塑性が、3種間(ヤゴ−エゾサンショウウオ−エゾアカガエル)の食う食われるの関係になると、必ずしも有利になるとは限らないのである。