| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-228
性成熟以降には体サイズの増大が起こらない決定成長の生物では、無作為に採集された成体の平均体サイズが個体群間で異なっている時に、死亡や移出入にサイズ依存性がある可能性を暗黙的に排除し、個体群間で成熟サイズの種内変異があるという結論を導きがちである。本研究では、決定成長者であるハナビラダカラMonetaria annulusに関する横断的調査で判明した個体群間での平均成体サイズの差異が、単純に成熟サイズの変異を反映した結果ではないことを示す。沖縄本島において2005年2月から13ヶ月間実施されたコドラート調査では、個体群間での成貝の平均体サイズの差異は常に見られた。また小型の個体がいる個体群では夏季に高温による大量斃死が起こり、成貝の加入は冬から晩春に集中することが判明した。一方、大型個体が占める個体群では死亡や加入の季節性が乏しかった。この結果を踏まえて大量斃死の起こる夏季をはさんだ標識再捕調査を行った結果、両個体群で成貝死亡率にサイズ依存性は検出されなかった。また成長を終えたばかりの個体のサイズを繰り返し調査した結果、初秋には小型個体のいる個体群で成熟サイズの小型化が見られたが、他の季節には個体群間での成熟サイズの差異は認められなかった。さらに温度ロガーの記録では、干潮時の日照のため夏季には小型個体のいる個体群で環境の温度が著しく上がるのに対して、その他の季節には温度の個体群間での差異はわずかだった。このことから、観察された成体サイズの個体群間での差異は以下の作用による複合的な産物である可能性が高い:(1)「温度−サイズ則(高温が成熟サイズを小さくする可塑性)」に従って夏季に成長期(幼貝期)を経験した個体が個体群間での加入個体の平均サイズの違いを生みだす効果.(2)夏季の大量斃死がそれまでに加入した比較的大きな個体を一掃して個体群の平均体サイズを小さくする効果。