| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-234
動物の中には、敵に襲われたとき自切(autotomy)という自発的に体の一部を切断して身を守ろうとする現象がある。これにより体の一部を失うが、生き残る可能性が高くなる利点がある。一方、自切は、将来の逃避スピードと繁殖に直接のコストとなる。このような状況下では、次に捕食者に襲われた時に捕食される危険が高いため、自切個体は繁殖可能な成虫に素早く成長し、交尾後には捕食者を警戒し、慎重に産卵する戦略が有利であるかもしれない。本研究では小型のコオロギであるマダラスズ(Dianemobius nigrofasciatus)を用いて、本種が自切によるコストを相殺するために生活史を可塑的に変化させて対応しているかを実験的に確かめた。
マダラスズに、4齢で自切処理・羽化時に自切処理・自切処理を行わないという、いずれかの処理を行った。そして、幼虫の発育に及ぼす影響として、発育日数と頭幅、および寿命を記録した。また、繁殖に及ぼす影響として、羽化後に、コントロールのオス個体と各処理のメスをペアにし、産卵前期間と産卵スケジュールを記録した。これらのデータは処理間で比較された。
その結果、4齢自切個体はコントロール個体に比べて有意に速く羽化したが、頭幅は有意に小さかった。オスでは早い段階での自切個体ほど寿命が短い傾向があったが有意差はなかった。メスでは処理間に有意差は無かった。また、処理間で総産卵数に違いはなく、メスの産卵スケジュールにも有意な差はなかった。以上の結果から、自切個体は速く成長することがわかった。これは、自切個体が自切後の逃避スピードや交配へのコストに対応して、繁殖可能な成虫に素早く成長するために生活史を可塑的に変化させたと考えられる。