| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-237
ウスキシロチョウ(Catopsilia pomona)はムモン型とギンモン型という、以前は別種とされていたほど異なる翅型2型を示す。これまで、その翅型決定要因として日長の効果が一部で示され、他のチョウ類で一般的にみられるような季節的表現型多型と解釈されてきた。その一方で、密度効果としての相変異の可能性も議論されている。しかし、これまでの研究では、実験に用いた個体数が少なく、もう1つの重要仮説である翅型の遺伝性については調べられていない。そこで本研究では、日長・密度・母親翅型の3つの要因が、子の翅型に与える影響について検討すべく、飼育実験を行った。同一の母親から得られた卵を短日区と長日区、そして単独区と複数区に独立に分け(計4処理区)、成虫になるまで飼育した(母蝶数N=20)。その際、成虫の翅型だけでなく、体色や体サイズ、成長期間など、幼虫時の諸形質への効果も調べた。さらに、野外における翅型の出現頻度の季節変動を知るため、沖縄本島内のフィールドで月1回の捕獲調査を2年間行った。
その結果、飼育実験では、母親の翅型と子の翅型出現頻度が逆転する母性効果が示された。この効果は、日長及び密度との相互作用によって生じた。すなわち、高密度または短日下で、ムモン型の母親由来の子はギンモン型になりやすいのである。このような、表現型多型の至近的要因としての母性効果は事例が少なく、鱗翅目においては初めての報告となるだろう。さらに、幼虫では体色の黒化や成長期間の短縮など、バッタ類で知られるものとよく似た密度効果が示された。野外における翅型の出現頻度に季節性はみられたものの、同日長である春秋において全く異なる出現頻度を示すという、日長効果のみでは説明できないパターンが観察された。