| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-240
昆虫は時間的に変動する季節環境に適応することで、地球上のあらゆるところへ分布を広げた。地域が異なると季節環境も異なってくるため、地域個体群はその地域に固有な自然選択を受け、局所適応をする。その結果、昆虫の表現型に地理的変異が生じる。地理的変異は自然選択のほかに、遺伝的浮動や表現型可塑性が要因となっている場合もある。
キアゲハPapilio machaonは春型(休眠越冬世代)と夏型(非休眠世代)という季節多型を示すが、これは世代間で見られる表現型可塑性である。2006年に本種の地理的変異を調べたところ、夏型は高緯度ほど体サイズが小さくなったが、春型は緯度によって体サイズが変わらなかった。そこで、これらの地理的変異が遺伝的変異を伴っているか、また季節型間で地理的変異が異なるのはなぜかを明らかにするために、共通環境条件下での飼育実験によって個体群間比較を行った。
その結果、春型・夏型共に高緯度個体群の方が体サイズが小さくなった。また低温下での可塑的な体サイズの増大が見られ、増大率は高緯度個体群の方が低緯度個体群よりも大きくなった。これらの結果は、本種の体サイズに見られる地理的変異に、遺伝的変異と可塑性の両方が関わっていることを示唆する。本講演ではこれらの実験結果を踏まえ、季節型間に見られる地理的変異の進化要因について考察する。