| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-241
ボウズハゼ亜科は熱帯域の島嶼に広く分布し、優占する魚類である。その広い分布域を説明する理由の一つとして、本亜科魚類の両側回遊性の生活史が考えられ、これを検証するためボウズハゼSicyopterus japonicusの河川生活期の生活史と加入、および集団構造を調べた。
和歌山県太田川において2003年6月から2004年10月まで稚魚と成魚の採集を行い、計707個体を得た。河川水温、雌雄の肥満度、そして雌の生殖腺重量の経月変化より、本種は春に活動を始めて成長し、夏に産卵、秋に越冬のためにエネルギーを蓄積し、そして越冬という、明瞭な年周期を示した。一方、静岡、和歌山、高知および沖縄の4カ所で得た成魚77個体について、ミトコンドリアDNAの調節領域前半部を用いた集団解析を行ったところ、地域による遺伝的なまとまりは認められなかった。また、太田川に加入する仔魚30個体の耳石解析から求めたふ化日組成は、生態調査で明らかになった推定産卵期と約2ヶ月のズレがあることが分かった。この二つの結果は、夏に河川を流下した本種仔魚が海洋において大きな分散をした後、春に母川とは異なる河川へ加入してくるものと考えられた。ボウズハゼの生息密度が少なく、流下仔魚が得られていない東北地方の秋における河川水温の変化は、太田川の水温変化と比べると急激に低下していた。これと河川生活期の結果より、東北地方へ加入した仔魚は夏を経て成魚になるが、秋に十分な蓄えを得られないため、その冬を乗り切ることができない可能性があると考えた。以上の結果を総合すると、ボウズハゼの分布は黒潮による仔魚の分散、そして河川における成魚の生残により決定されていると考察した。