| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-243

千曲川中流域におけるユスリカ類底生・流下密度の動態―夏期に発生した大規模洪水の影響

*井上栄壮,木村悟朗,豊田大輔,政田啓輔,平林公男(信州大・繊維)

河川生態系は、大きな枠組みとして、流量・水位変動の影響を受けつつ形成・維持される動的な系である。河川の流量・水位は、主に集水域の降水量によって絶えず変動する。中でも、時折生じる大規模な洪水は、大部分の水生生物を土砂もろとも下流へと押し流し、広範囲にわたってギャップを生成する重要な自然撹乱イベントである。

洪水後の河川生物群集の回復過程は、底生動物、特に水生昆虫類の動態に着目して調べられてきた。一般に、ユスリカ類などの小型でライフサイクルの短い分類群が速やかに増加し、造網性トビケラ類などの大型でライフサイクルの長い分類群の回復は遅れるといわれている。また、水生昆虫類の個体群維持機構は、卵から幼虫または蛹までのステージが水生で、成虫は陸生で飛翔するという、多くの分類群に共通する生活史特性との関連が深い。すなわち、水生である幼虫の個体群は、成虫による同所的な産卵と上流からの流下幼虫(成虫の遡上飛翔を含む)という、主に2つの加入源によって維持されると考えられている。しかし、洪水後の回復過程とその機構は、種によっても季節的背景によっても異なると考えられる。自然河川における洪水の発生が突発的であることも相まって、洪水の及ぼす影響については未だ不明な点が多い。

日本最長の河川、信濃川の長野県貫流区間を千曲川という。2006年7月19日前後、千曲川中流域において観測史上第2位(立ヶ花・陸郷観測所)の水位を記録した大規模洪水が発生した。演者らは、2005年4月から2006年12月までの毎月1回、千曲川中流域において底生・流下昆虫類のモニタリングを実施しており、洪水前後での密度動態が比較可能な機会を得た。本講演では、個体密度で卓越することの多いユスリカ類の動態に着目し、この洪水が幼虫密度の増減に及ぼした影響および個体群回復への流下幼虫の寄与について、種群ごとに議論する。

日本生態学会