| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-251
多くの生物種において個体群中に多様な色彩パターンが存在する色彩多型がみられ、近年は体色の決定要因だけでなく多型の維持機構に関する研究も進んできている。本研究の材料であるオオタバコガHelicoverpa armigeraでは幼虫体色に様々なパターンが存在し、特に終齢期において緑色から褐色、黒色まで非常に顕著な色彩多型がみられる。この幼虫体色の発現には遺伝的な要因も関係していると思われるが、これまでの研究では利用する寄主植物の部位によって体色発現頻度が異なり、特に葉を摂食すると緑色を高い頻度で発現する傾向がみられた。また緑色幼虫の体液中には餌由来のカロチノイド色素が多く存在していることからも、餌が体色発現に影響を与えていることが示唆されていた。今回は体色決定に影響を与える可能性のある他の環境要因についても検証を行った。まず、様々な温度条件下で飼育を行った結果、高温条件下ほど体色の明度が上がり、逆に低温下では体色の黒化が見られた。また、秋季の野外において幼虫体温を測定した結果、褐色幼虫の方が周辺気温に対する体内温度が相対的に高い傾向があった。このことから、気温の低い環境条件下では褐色幼虫の方が体温上昇において有利であると考えられた。その他にも背景色が体色発現に与える影響を検証したが、背景の色そのものではなく明度が関係しているとも考えられる結果となった。本種は非常に広食であり幼虫は様々な植物種を寄主として利用しているが、植物種によって摂食する場所の構造が異なるだけでなく、葉や果実といった部位によっても構造が異なっている。また、体色発現にある程度の可塑性もあることから、広食性という性質からも本種幼虫の色彩多型について考察する。