| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-253

里山林内におけるノシメトンボの性比に影響を及ぼす採餌場所をめぐる闘争

*岩崎洋樹,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

ノシメトンボは里山に生息するアカネ属の一種で、幼虫時代を水田で、羽化成虫は水田の周囲の樹林内で生活している。調査地である長野県白馬村神城地区は、やや大きな盆地(約1.5km2)で、盆地中央(標高650m程度)には水田が拡がり、河岸段丘上の集落の裏の斜面、標高750m程度から上はスギの人工林となっている。羽化後間もない性的に未熟な雌雄は標高の低いスギ林の林縁部やギャップで多く見出され、性比はほぼ1対1であった。しかし、性的に成熟した雌は、標高1000mを超えるギャップにも多く出現し、これらの場所の性比は雌に強く偏っていた。雌は産卵のため、約4日に一度水田を短時間訪れるのみで、それ以外は林内ギャップで終日摂食活動を行ない、卵生産に専念している。標高による餌の量や質の違いを明らかにするため、ギャップ内に生息する小昆虫を粘着トラップによって捕獲したところ(標高800m,900m,1000m)、個体数や総乾燥重量で、標高による違いは得られなかった。ギャップ内において、本種は「待ち伏せ」型の採餌行動を示し、地上1.5m程度の木の枝先や、草本の茎の先端に好んで静止している。ギャップ内におけるこのような静止場所の数には限りがあるため、静止場所をめぐる個体間の闘争は常に生じていた。雌雄が共に採餌を行なう時間帯のギャップ内において、単位時間あたりの闘争回数や侵入個体数などを調べると、標高が高くなるにつれ、雌の闘争回数は減少し、雄の密度との関係が認められた。すなわち、標高が高くなるほど、餌量は変わらないものの、雌の採餌活動は雄によって妨害されなくなったのである。したがって、卵生産のために摂食活動に専念したい雌は、雄の密度が低く、静止場所をめぐる闘争が生じない標高の高い場所を採餌場所として選択した結果、標高によって雌雄の分布は偏ったと考えられた。

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