| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-260
「生きた化石」として知られるカブトガニは、東南アジアから日本にかけて断続的に分布しており、日本は分布の最北端にあたる。国内では九州北部および瀬戸内海において生息が確認されているが、生息地のほとんどで個体数を減らしており、絶滅が危惧されている。本研究は本種・日本集団の遺伝的構造とその形成過程を明らかにし、保全への基礎データを得ることを目的とする。長崎県九十九島-佐世保海域から山口県平生湾にわたる10の生息地より、主に体液と卵を採取し、およそ400個体を解析に供した。これまでのミトコンドリアDNA AT-rich領域の解析において、日本集団が福岡県・加布里湾以西と博多湾以東とで遺伝的に分化すること、西側集団は祖先多型を保持し、東側に比べ遺伝的多様性が高いことが示唆された。
本研究では本種の、特に分集団内の遺伝的構造を精査するため、新しくマイクロサテライト (SSR) DNAマーカーの開発をおこなった。ここでは(AC)n(AG)nといった複合マイクロサテライトと呼ばれる2つの反復モチーフが縦列する配列を目的マーカーとした。各モチーフの境目に設計された座位共通プライマー (AC)5(AG)6および(TC)5(AC)6 (Lian et al. 2006) をもちいて直接PCRをおこない、TAクローニングにより産物を単離した。この単離産物はその両端に反復配列を持っており、反復配列間のどちらか一方向に特異的プライマーを作成することで、容易にSSRマーカーを開発できた。予報的に、今回開発された4つの座位をもちいて、複数集団の解析をおこなったところ、このSSR解析においても集団間に有意な遺伝的差異が検出された。現在さらに座位数および集団数を増やして解析をおこなっており、ミトコンドリアDNAによる母系解析の結果も合わせて、日本のカブトガニ集団における遺伝的構造とその成り立ちについて報告する。