| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-263
自然集団において遺伝構造を明らかにすることで種の分布変遷や系統地理的な考察を行うための基礎データを得ることができる。これらの遺伝情報はまた人的な緑化において種苗の調達範囲を考慮するためのガイドラインとして役に立つことが期待される。本研究では遺伝的多様性を考慮した植栽を行うための指標を策定するために日本の照葉樹林に広く生育するヤブツバキを対象として遺伝的多様性と分化を調べた。
ヤブツバキの分布域全体(北は青森県から南は鹿児島県)から47箇所において葉サンプルを収集し、一箇所あたり約20個体を解析した。遺伝マーカーはヤブツバキに近縁のチャのExpressed Sequence Tag(EST:発現遺伝子の部分配列)に由来するマーカー(マイクロサテライトを含む35個)を使用した。STRUCTUREソフトウェアを用いて集団数を推定し、推定された集団に属する割合(メンバーシップ)をサンプリング箇所ごとに求めた。さらにメンバーシップと緯度および経度の関係を調べた。また個体間血縁度の空間自己相関をコレログラムで解析した。
その結果、ヤブツバキは大きく2個の集団から構成されると推定された。一つの集団の中心は関東地方でありもう一つの中心は九州地方であった。さらにメンバーシップは経度と弱い相関が見られた。すなわち九州地方と関東地方を両極として徐々に混じり合うような遺伝構造を持っていた。また個体間血縁度は個体間の距離クラスが500kmまでは正の自己相関を示し、平均的な遺伝的パッチサイズと考えられた。本研究ではESTマーカーを使用してヤブツバキの分布域全体の遺伝的多様性を調べ種苗配布域策定のための基礎データを得た。