| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-269
水田内に生息するクモ類は、イネ害虫の重要な天敵であることが知られている。近年、農薬に頼らない環境保全型稲作が全国的に普及しつつあることから、こうした土着天敵の役割を改めて評価し、それらを効果的に利用する方法を確立する必要があると思われる。そのためにはまず、水田におけるクモ類の多様性の制限要因を明らかにする必要があるだろう。
水田内のクモ類は、害虫が増加する前の時期にユスリカ類などを多く捕食することが報告されている。こうした代替餌が豊富な水田ではクモ類の増加が期待されるが、その関係性を検証した例は少ない。またクモ類は植物群落構造や農地周辺のランドスケープ要素(休耕田など)からも影響を受けることが知られている。そのため水田内のクモ類の多様性は水田内外の要因から複合的に影響を受けて決定されていると考えられる。
本研究は、水田内のクモ類の多様性が水田内の要因とその周辺ランドスケープ要素から受ける影響を明らかにすることを目的としている。宮城県大崎市では、無農薬、無化学肥料などの環境保全型稲作(ふゆみずたんぼ)が多くの水田で行われており、ふゆみずたんぼや慣行農法水田、休耕田などがモザイク状に分布している。本研究では、1枚約20aのふゆみずたんぼ32枚を対象に節足動物類のすくい取りや見取り調査、そしてイネや雑草類の植生調査を行なった。その結果、9月上旬のコモリグモ類密度は、株当たりのイネの茎数と7月下旬のユスリカ量、水田周辺の休耕田面積から正の影響を受けることがわかった。以上のことからコモリグモ類は、イネの分けつが多くかつユスリカが豊富な水田ほど多くなると考えられた。さらに休耕田付近の水田ではコモリグモ類が多かったことから、休耕田はコモリグモ類のソースとしての機能を持っていることが示唆された。