| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-275

酵素活性から見た、ため池底質の生態系機能

*広木幹也, 中川 惠, 赤坂宗光, 高村典子(国立環境研)

ため池の持つ生態系機能とそれに影響する内外の要因を明らかにすることを目的として、特に有機物が分解・無機化される場として重要である底質の有機物分解機能を酵素活性から評価する研究を開始した。

[方法]調査は2007年5月に兵庫県南西部の景観と植生の異なる31のため池を対象に、水質の測定と底質の採取を行った。底質はアクリル製コアを用いて採取し、表層3 cmを対象にエステラーゼ活性(FDH)、セルラーゼ活性(GLU)、フォスファターゼ活性(PA)、ペプチダーゼ活性(PEP)および有機物量(強熱損量)などを測定した。このうち9ヵ所のため池では、8月、10月および2008年1月にも調査を行った。

[結果]底質の酵素活性および有機物量は調査対象のため池の間で大きな差があった。微生物バイオマスの指標とされるFDHと強熱損量およびPEPの間には高い正の相関関係が認められ、これらは植生の無い池では植生のある池に比較して低い傾向にあったが、植生の種類(浮葉植物優占、抽水植物優占)による差は認められず、また、池周辺の景観(森林、水田、丘、宅地)による明確な差異も認められなかった。GLUとPA活性は概ね、浮葉植物>抽水植物>植生なしの順に高く、周辺が宅地である池は相対的にGLUが高く、周辺が森林である池ではPA活性が相対的に高い傾向にあった。また、水中の栄養塩と底質の酵素活性の間には一定の傾向は見られず、水中の全リン酸濃度が低いにも拘らず、底質中のPA活性が高い池もあった。浮葉植物の繁茂する池では秋季にGLUが顕著に増加した。

これらの結果は、ため池の有機物分解機能には、植生の有無、種類が影響することを示唆するものであり、ため池および周辺から流入する物質の循環を考える上で、底質の機能を評価することが重要であると考える。

日本生態学会