| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-279

ニホンジカの過採食圧下で芦生天然林植生はどう変わったか -大規模防鹿柵実験1年の効果とあわせて-

*阪口翔太(京大・農),藤木大介(兵庫県大),井上みずき,高柳敦,藤崎憲治(京大院・農)

京都大学芦生研究林には近畿地方有数のブナ林が残存しており、多くの希少生物の生息地となっている。しかし、近年ニホンジカ(以下シカ)の採食圧が急速に高まったことで、かつて豊かであった森林下層植生は単純化し、シカの不嗜好性植物が増加していることが指摘されている。現在日本各地の天然林でシカによる植生改変が問題となっているが、シカの採食圧によって植物種の地域絶滅が起こるのかどうか、また採食圧を排除したときに異なる種組成の植物群集がどのような反応を示すのかなど、いまだ不明な点が多く残されている。こうした点を検証するために、我々はまず2つの小集水域に総延長3400mのライントランセクトを設置し、当地の植物多様性と群集構造を明らかにした。その結果、地形要因に強く規定される4つの植物群集を認識することができた。また森林下層植生の低質化が起こっていることが確認されたものの、24種類にもおよぶ希少植物がライントランセクト上に生育していることが確かめられた。次に我々は小集水域の1つを防鹿柵によって囲むことで、シカの採食圧を大規模に排除する実験を開始した。2006年より、防鹿柵の内外に設置されたライントランセクトと固定プロットを利用して、植物多様性や植物群集構造の長期モニタリング調査が継続されている。実験開始から1年が経過した2007年には、シカの採食圧を排除したサイトで下層植生の被度・種多様性の回復がみられたが、その変化パターンは植物群集ごとに全く異なるものであった。本研究では、芦生天然林植生の現状を報告するとともに、植物群集の違いとシカの植物種に対する嗜好性という点に注目して、防鹿柵実験の効果を検証する。

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