| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-280
四国では森林における人工林率が非常に高く、また人工林以外も多くは二次林であり、原生状態に近い天然林はわずかしか残されていない。四国南西部の愛媛・高知県境にある三本杭(1226m)周辺(滑床山および黒尊山国有林)には、ブナ、カエデ等の落葉広葉樹に、モミ、ツガ、アカガシ等が混じるこの地域特有の天然林がまとまって残されている。ところが近年、ニホンジカの生息数増加により、この一帯で山頂部等のササ原が裸地化し、また林内において林床植生の消失、小・中径木の減少等、森林の衰退現象が生じてきた。そこで、シカが当地の自然植生に及ぼしている影響の実態調査を2005年より開始し、その一環として天然林での剥皮被害実態について調査を行っている。
調査方法は、山頂周辺に調査プロット(各々0.10-0.12ha)6ヶ所を設定し、プロット内の胸高直径3cm以上の全生立木について、樹種、胸高直径、剥皮被害の有無を記録した。剥皮被害は樹幹部と根張り部に分け、樹幹部については剥皮部分の面積を楕円近似によって推定し、これから剥皮被害指数を算出した。
今回はプロット設定直後(2006年3月)と、1年後(2007年3月)の状況について報告する。プロットを設定した6林分は、いずれも下層植生はほとんど無く、立木は高頻度で剥皮被害を受けている。この1年間では、すべてのプロットで新規被害が発生し、5プロットでは剥皮による枯死木が発生していた。疎林化(さらには裸地化)あるいは不嗜好樹種の優占する低木林への林相変化が進行していて、貴重な天然林を保全するため早急な対策の必要性が示された。
なお、この調査地に糞粒調査区画を設置し、毎年秋に糞粒法によるシカの生息密度推定も行っており、2005年からの3年間は毎年約30頭/km2前後で推移している。
この研究の一部は四国森林管理局の委託により行った。