| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-283

兵庫県西宮神社社叢の植生管理−林内移植樹の明・暗順化反応−

大杉祥広,*石井弘明(神戸大・農)

兵庫県南東部にある西宮神社社叢林では林内に繁茂していたシュロを除去した後、衰退した低木層の回復を図るため、在来種の移植による植生管理が進められている。本研究では移植に対する稚樹や苗木の順化反応を明らかにするために、低木層を構成する常緑樹数種(ヤブニッケイ・アラカシ・ヤブツバキ他)の稚樹を明るい場所に移植し、移植した4月から9月までの変化および移植前に展開した去年葉と移植後に展開した当年葉の光合成特性の差異を比較し、光環境の変化に対する順化反応を観察した。また、苗畑から林内に移植した苗木についても同様の調査を行った。

明るいところに移植した稚樹では去年葉の葉面積あたりのクロロフィル量(Chl)が大きく減少したのに対し、対照とした林内の稚樹ではやや減少するにとどまった。一方、苗木では去年葉のChlが増加した。また、9月における去年葉のChlは、移植稚樹では当年葉より少なく、林内稚樹・苗木では多かった。またクロロフィル量と相関があるSPAD値を1週間おきに測定したところ、移植稚樹では、アオキが約2週間で減少し始め、他の樹種はゆるやかに減少した。8月の最大光合成速度(Amax)は移植稚樹の当年葉で去年葉よりも高い値を示したが、林内稚樹では去年葉と当年葉のAmaxに差はなく、ともに移植稚樹よりも低かった。

移植稚樹では光環境の改善に対し、去年葉から当年葉へクロロフィルを転流し、光合成能力を高め、明順化していると考えられる。遺伝的資源を保全しつつ積極的に植生管理を行うためには、林内における移植が好ましいが、本研究の結果から、光環境の変化に対する樹種の反応性の違いを考慮する必要性が明らかになった。

日本生態学会