| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-286

トキの採餌環境整備を目的とした承水路の新規創出効果

*大石麻美,石間妙子,関島恒夫(新潟大・院・自然科学)

トキは、かつて里山生態系に生息する代表的な水鳥であったが、狩猟や湿地開拓、および農薬の影響により、日本個体群は絶滅した。環境省は、日本個体群と遺伝的に同一とされる中国個体群の保護増殖を推進し、試験放鳥に向けて野外順化訓練をすすめている。このような取組みが展開される一方、トキの生息環境における餌生物は圃場整備や河川改修により著しく減少し、また再生事業は局所的なレベルに留まっている。そのため、生息環境の生物群集をボトムアップし、かつてトキが生息していた餌密度レベルにまで早期、かつ広域に再生することが急がれる。再導入プロジェクトを遂行するためには、対象種の生息環境を評価する生態学的アプローチとともに、地元地域が長期・持続的に実行できる方法の確立が必須である。トキに関してみると、佐渡の湿性環境の約8割を占め、かつ常に管理されるために植生遷移が進行しにくい水田は、佐渡に現存する主な採餌環境と考えられるため、行政事業レベルのみならず、農家で実践できる簡易な環境整備方法を確立することが有効である。

本グループでは、水田を対象に栽培管理形態と生物量との関連性について一年を通した評価を行ってきた。その結果、水田に隣接された承水路(以下、江とする)の生物量が、水田よりも高いことが明らかとなった。江は、水路や上段水田からの浸みだし水を一旦温め、また中干しの際は排水路の役割を担う水田周辺に掘られた溝である。水深が浅く常時湛水となるため、草丈の高い時期や積雪期においても、トキが利用できる採餌環境にもなる。そこで本研究では、江の新規創出による生物量の評価、および早期かつ効果的に生物群集をボトムアップする立地環境の評価を行ったので、その結果を発表する。

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