| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-291
摩周湖は流入出河川をもたない閉塞湖であり、もともと魚類は生息していない湖だった。しかし、水産増殖の目的で1926〜1928年にニジマス、1930 年にウチダザリガニ、1968〜1974年にヒメマスが放流されて定着しており、さらに、放流記録のないエゾウグイも生息している。
摩周湖の動物プランクトンは、1960年代以前にはミジンコ (Daphnia longispina) やケンミジンコ (Cyclops strenuus) などの大型甲殻類プランクトンが優占していた。ところが、それらは1970年代に急速に減少し、代わりにゾウミジンコ (Bosmina longirostris) やワムシ類 (Asplanchna priodonta, Keratella cochlearis) などの小型の種が優占する湖となった。その変化のタイミングは、プランクトン食魚であるヒメマスの導入時期とほぼ一致しており、ヒメマスの体重も放流後の数年で著しく減少していたことから、ヒメマスが湖内の大型甲殻類プランクトンを食べつくし、動物プランクトンの種組成を変化させたと考えられた。
現在でも湖水中に大形甲殻類プランクトンはほとんど観察されず、また、ヒメマスは成長速度が遅くて小型である。2004年8月にヒメマスを捕獲して胃内容物を調査したところ、ケンミジンコのコペポディド幼生、シカクミジンコ属 (Alona sp.)、ゾウミジンコの成体など、湖水中で観察されるものよりも大きなサイズの動物プランクトンが多くみられた。摩周湖では大型甲殻類プランクトンが完全に消滅したわけではないものの、ヒメマスによる選択的な捕食によって極めて低い密度に抑制されているものと考えられた。