| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-293
中国地方最大のカルスト台地である山口県秋吉台上の草原域は,早春の火入れのみで維持されている.しかし,近年,地元住民の高齢・過疎化により山焼き面積も徐々に縮小し,木本の侵入や植生の遷移などによって,草原の質的な変化も確認されつつある.こういった状況をふまえて,従来の火入れという管理に加え,採草を行うことで草原を保全しようというプロジェクトが立ち上がりつつある.プロジェクトを始動するにあたって,採草が草原植生に与える影響をモニタリングするため,2007年春に刈取り試験地を設置した.試験地は,秋吉台東部に2つのサイト(植生高が低い・中程度),西部に植生高が高いサイトを1つ設置し,各サイトを6月刈区,11月刈区,刈なし区に分割した.各区の面積は140m2で統一した.調査は主に夏から秋にかけて行い,主要な種の開花茎数を毎月1回記録した.また,各区に2m×2mの方形区を5個設け,毎月の平均植生高と被度を計測し,刈取り処理前の6月と10月には植生調査と地上部乾重量の測定を行った.
その結果,6月刈区において開花茎数が多くなった種は,全サイトでアキノキリンソウなど3種,植生高が低い・中程度のサイトではオトコエシなど4種,植生高が高いサイトではウメバチソウなど2種であった.センブリは各区間での差異はみられなかった.逆に,ハギ類は開花茎数が少なくなった.さらに,いずれの種においても,6月刈区では11月刈区や刈なし区より長期にわたって開花が確認された.また,植生調査における総種数は,地上部現存量が中程度のプロットにおいて最大となっていた.このように,6月の刈取り処理は夏から秋にかけて開花する草本種の開花を促進し,開花期間を延長させることがわかった.しかし,刈取り処理の継続により植生が衰退することも予想され,今後のモニタリングの継続と,採草場所の慎重な選定が必要であることが示唆された.