| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-294
近年,わが国の人工林の6割以上を占める私有林の管理放棄が問題となっている.私有林については,所有規模によって経営の性格が異なるため,規模別に議論する必要がある.本研究では,林家の9割近くを占める小規模林家(所有林面積10ha未満)を対象に,その所有林にみられる管理状況の特徴を,面積の広い会社有林との比較によって,明らかにする.
対象地は,岡山県英田郡西粟倉村とした.同村の林野率は95%,うち84%が人工林である.所有形態は全て民有林であり,うち5割が私有林である.林家の87%は所有林面積10ha未満の小規模林家である.本研究では,まず,森林計画図および森林調査簿をもとに,個人有林および会社有林の立地特性を明らかにした.次に,同村の林業関係者および小規模林家27戸を対象に,森林管理に関する聞取り調査を行い,小規模林家の管理放棄の要因特性を明らかにした.
現在の私有林の多くは,昭和40年代に,採草地・薪炭備林として利用されていた入会林の個人分割によるものであった.そのため,比較的アクセスしやすい低標高に多いが,傾斜はきつく,小さく分割されているため管理されにくいと考えられる.他方,会社有林などは,かつてのタタラ場・御林に位置しており,比較的高標高にあるものの手を入れやすい立地であることが示された.私有林への植林,その後の管理のほとんどは,現在の所有者またはその父親を主体に行われた.しかし,現在は,管理者が高齢化し,半数以上の林家が山に入っていない.また管理放棄の要因は,木材価格の低迷という経済性だけでなく,山仕事の徒労感を挙げる林家が多かった.
以上のように,小規模林家の所有林が管理されない背景には,立地条件や,管理者自身の健康問題が絡んでいる.今後の管理の担い手として,所有者の家族間継承については困難であり,よそ者とのパートナーシップが求められよう.