| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-309

セミぬけ殻標本による都市近郊部の環境把握の可能性-生物安定同位体比を用いた地域環境解析-

*馬谷原武之(日本大院・生物資源科学),笹田勝寛(日本大・生物資源科学),宮地俊作(日本大・生物資源科学),河野英一(日本大・生物資源科学)

都市近郊部は農地、市街地、森林、公園等、複雑な人為、非人為的な環境要因が存在している。

環境計測において、これまでの非生物を対象とした手法はその場の環境の一瞬を反映したものでしかない。しかし、生物の同位体比は一定期間の食物の同位体比を反映するため、その移動範囲、生息時期を利用する事により一定期間、一定面積の環境状況を反映しているといえる。生物の同位体比を用いる事により環境計測の範囲を広げる事ができ、地域内の同一生物の同位体比の差異から地域環境指標となる可能性がある。

今回、幼虫時に生息していた地点の樹種や窒素源をピンポイントで反映していると考えられるセミぬけ殻標本の炭素、窒素安定同位体比の測定を行った。

セミのぬけ殻は大量にサンプルを取る事が可能である。また、ぬけ殻である事から一般調査者の抵抗が少なく全国的にセミのぬけ殻調査も行われている。

サンプルは神奈川県内、東京都多摩地区のアブラゼミぬけ殻、成虫を用いた。

1995年藤沢市セミのぬけ殻調査のアブラゼミぬけ殻標本を複数測定した所、窒素、炭素同位体比の関連性から、複数のグループに分かれた。これらは、都市近郊部の複雑な環境状況を反映している可能性がある。

また、セミのぬけ殻-成虫間(バルク)の同位体比の差は窒素同位体比が1.5〜3.0‰、炭素同位体比1.0〜2.0‰であった。

セミのぬけ殻を用いた手法は、ぬけ殻調査後の標本の有効活用にもつながると考えられる。

今後は、各地域で行われているセミぬけ殻調査との連係により年代による都市環境の変遷との関連性、各セミ種類間の差異、樹種との関連性を検証したい。

日本生態学会