| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
シンポジウム S01-1
21世紀に入りゲノミクスの発展によって、いわゆるミクロ系の分子研究とマクロ系の進化・生態研究の統合的な研究が進んでおり、生態ゲノミクス、または進化ゲノミクスと呼ばれている。こうした手法を用いて、平行進化、進化の方向性、地質学的な時間スケールでの自然選択など、これまでの表現型に基づく生態学的な研究手法では解明が難しかった現象が解明されつつある。モデル生物のゲノム情報を活用することで、その近縁種の解析がすすめられており、本講演では、シロイヌナズナとその近縁種を用いた解析例を取り上げる。
ステビンスは1974年に、自家和合性の進化は、被子植物で最も多くの種で起こった進化傾向の1つだと指摘した。シロイヌナズナは自家和合性種であり、これまで知られている全ての系統は自家和合性で自殖を行う。アフリカのシロイヌナズナのS-遺伝子座のゲノム配列を解析したところ、雌遺伝子SRKは偽遺伝子であるが、雄のSCR/SP11遺伝子には遺伝子破壊変異はみられなかった。一方、ヨーロッパでは、雄遺伝子の偽遺伝子が自然選択によってほぼ固定していた。このことは、アフリカとヨーロッパで自家和合性が平行進化したことを示している。つまり、自家和合性の進化は、多数の種で平行に起こっただけでなく、シロイヌナズナ種内でも少なくとも2回起こったのである。この平行進化は表現型レベルでは発見不可能であり、ゲノムを用いて生態的に重要な形質を解析することの重要性を示している。