| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S03-5

寄生生物はどうする?〜カエルツボカビまで来た

五箇公一(国立環境研)

これまでの侵入生物対策は脊椎動物や大型節足動物、植物など目視で種の識別が可能な生物の侵入に注目が集まり、「目に見えない侵入生物」についてはこの生態学会においてもほとんど研究が進んでいない。しかし、悪性の病原体を媒介する寄生生物や生態系の改変をもたらす微小な節足動物など、「目に見えない侵入生物」は生態系のみならず人間生活にも深刻な影響をもたらす恐れが高い。特に、天然資源のほとんどを海外に依存する我が国においては、様々な輸入資材に紛れて非意図的に侵入してくる「随伴侵入生物」の問題が深刻化している。

これまでにもこのような微小な随伴侵入生物については、例えば農林作物に直接的被害をもたらす病害虫は農林水産省の植物防疫法や家畜伝染病予防法によって検疫・防除対象とされ、人に直接加害する病原体およびその媒介生物は厚生労働省の感染症予防法による規制がなされてきた。しかし、生態系に影響を及ぼす種や、爬虫類・両生類・無脊椎動物に寄生する種などはこれらの法律の規制対象外であり、さらに環境省の外来生物法でもカバーされていない。このような状況下、象徴的な事例として、両生類の病原体であるカエルツボカビ菌の国内持ち込みが昨年末に発見され、大きな話題になった。IUCN(世界自然保護連合)の世界侵入生物ワースト100に選定されながら、法律的にも、また学術的にも全く注目されていなかった本菌の侵入は科学界のみならず一般にも大きな衝撃を与えた。本種は輸入ペット用カエルから発見されたが、野外における分布拡大状況は不明であり、その生態リスクは未知数の状態にある。

国際貿易の自由化に伴い、今後このような「目に見えない侵入生物」はますます増大することが懸念される。分類学・生態学・病理学など様々な科学的側面からの早急な実態解明とリスク対策の確立が求められるとともに法的措置を急ぐ必要がある。

日本生態学会