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シンポジウム S04-2
「豊葦原瑞穂国」と言われた日本は、葦原が多いことに示されるように、河川には多くの湿地的環境(氾濫原)が存在し、そしてそのような氾濫原環境で、人々はいにしえより稲作をおこなってきた。河川に堰をもうけて取水し、稲作に利用する利水技術の開発、またその一方で、氾濫原環境は大雨による洪水といった自然災害を受けやすい場であり、そのため河川の氾濫による災害を軽減する治水技術の開発も併せて行われてきた。例えば洪水時、集落への浸水を防ぐ目的で霞堤や越流程が河岸に設置され、水位の上昇に伴い水田に河川水が流れ込むようにすることで、人家への浸水を抑えていた。また、河川水の流入は同時に肥沃な土砂を水田に運びこむため、洪水後、水田に運ばれた土砂を稲作に利用するといった工夫も行われてきた。このような土木技術と経験が残されている氾濫源環境も僅かにあるが、国内の多くの地域では、氾濫原での高度な土地利用(圃場整備や宅地造成)が進められた。さらに、氾濫を許容しない治水重視の河川改修が行われてきたことにより、氾濫原環境が急速に失われてきた。そのため、氾濫原を利用する生物にとっては、大きな問題となっている。
このような氾濫原環境の消失は国内のみならず国外でも多く見られ、近年、欧州や北米といった先進国では氾濫原環境の自然再生が進められている。しかしながら、それらの地域では氾濫原を水田として利用する例は少なく、アジアモンスーン地域で見られる、水田地帯での氾濫原環境の修復に関する知見はまだ少ない。
今回の発表では、氾濫原環境の消失による河川横断方向のハビタットの連結性の減少に注目し、1)河川−水路−水田のネットワーク構造が分断された地域におけるその再生、2)氾濫原環境の創出によるハビタットの連結、について説明し、水田を含めた氾濫現環境の修復の重要性について発表したいと考えている。