| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S04-3

川の蛇行と流量は一次生産過程に影響するのか?

萱場祐一 ([独]土木研究所・自然共生研究センター)

川の平面形状,縦横断形状そして流量は河川管理における数少ない操作対象であり,これらは,洪水時に流下させ得る流量だけでなく,河道内の微地形,例えば,瀬・淵の分布と構造を支配し,流速・水深・底質といった物理量を介して水生生物の生息に影響を与えることが知られている.このような上位の階層の構造がより下位の階層の構造を支配することは,既に多くの研究者によって示されてきたが,河川の平面・縦横断形状そして流量が物質・エネルギーに与える影響についてはあまり論じられてこなかった.本研究では,上位の階層に位置する河川構造が下位の構造を介して底生藻の一次生産に影響を及ぼす過程を一次生産過程と捉え,数理計算を元に,河川平面形状と平常時の流量を操作した際の一次生産過程の変化を解析し,その傾向を明らかにする.具体的には河川平面形状が瀬・淵構造に及ぼす影響を既往の研究に基づき二重フーリエ級数の重ね合わせとして表現し,ここで得られた微地形を境界条件として数理モデルにより流速・水深の平面分布を明らかにした.また,底生藻の一次生産が底生藻内部の基質の拡散,光の消散によって影響を受けることに着目し,底生藻内部のこれらの現象を数理モデルにより表現し,底生藻の現存量,流速・水深を変数として一次生産速度及を推定した.以上2つの数理モデルを組み合わせ,蛇行の程度・流量の多寡が底生藻の一次生産に及ぼす程度を系統的に理解した.計算結果から,蛇行の程度が大きくなると瀬・淵構造が発達し,瀬を中心に一次生産速度が上昇し,蛇行が減少すると一次生産速度には平面的な偏りがなくなり,かつ,リーチスケールでは蛇行が大きい場合と比較して一次生産速度は全体として上昇した.平面形状の違いは河道の一次生産力とその分布に影響を与え,餌資源の供給を介して水生生物の生息に影響を与えているのかも知れない.

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