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シンポジウム S05-1
近年人間活動によって多量の窒素化合物が大気中に放出されるようになり,都市部周辺の森林生態系への窒素沈着量が増加している.また,経済発展が著しい東アジアからの窒素化合物の長距離輸送の寄与も増加している.こうした窒素沈着量の増加は、森林生態系において窒素過剰を引き起こし,森林生態系から多量の窒素が流出する(窒素飽和).このような背景において,流域生態系における窒素の動態解明を行う必要がある.本研究対象の御手洗水試験流域(ヒノキ人工林(樹齢約50年);流域面積9.5 ha;三郡変成岩類中層部緑泥片岩及び蛇紋岩)は,国内の中では東アジアに近い九州北部に位置し,福岡都市圏近郊に位置している.本試験流域において,2004年−2006年において窒素化合物の沈着と流出の計測を行った.
窒素沈着量(林内雨+樹幹流)は,14-17 kgNha-1yr-1であり,国内の他の観測地と比較してかなり高かった.その原因として,福岡都市圏から排出される汚染物質が考えられたが,大気中のガス・粒子状物質の測定から,東アジアからの長距離輸送の影響も認められた.窒素流出量は,9-13 kgNha-1yr-1と算出された.このため,本試験流域の窒素保持能は12-36 % 程度と非常に低かった.本試験地において,土壌無機化速度の計測を行った結果,純窒素無機化速度は遅かったが,硝化率は高かった.また,一般的に硝化率が低いとされる斜面上部の硝化率は本試験地では斜面下部と同程度であった.したがって,このような高い硝化率のために本試験地では保持能が低いものと考えられた.さらに,本試験地は直接流出率が高いため,このような水文特性も窒素保持能を低下させているものと考えられた.本発表では,このような結果を踏まえ,生態学的意義についても考察したい.