| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S05-2

森林生態系の蒸発散 ー単木スケールの樹液流計測からのアプローチー

久米朋宣(九州大・演習林)

森林から大気への水の移動である蒸発散は,年降水量のおよそ30−80%を占める森林水循環の重要なコンポーネントである.現在,森林からの蒸発散の計測及びモデル化を通じて,蒸発散過程を明らかにすることが,気候変動に伴う地球規模スケールの水循環の変化を予測するうえで,また森林伐採等による地表面状態の変化が地域スケールの水循環に与える影響を予測するうえで,重要となっている.特に東アジアは広くアジアモンスーンの影響下にあり,降水や気温の季節性が地域毎に大きく異なり,またその地域毎に樹種構成も異なるため,それぞれの森林毎に蒸発散のフィールド研究を行う必要がある.

近年,森林蒸発散過程を明らかする手法として乱流変動法による蒸発散の計測と,その計測データに基づくモデリングが最も有力な手法として広く用いられている.しかし,乱流変動法では,計測器を樹冠上に設置するための観測タワーの建設が必要であることや,計測される蒸発散は林分スケールの情報であるため単木毎の蒸発散を評価することができないことなどの限界がある.また,乱流変動法では降雨中に信頼できる計測ができず,降雨で樹冠面が濡れている時の蒸発と蒸散を分離評価することができないという制限もある.これら乱流変動法の限界を克服する手法として単木を対象とした樹液流測定がある.樹液流測定では,樹高の大きい熱帯常緑樹林における計測でも地際にセンサーが設置でき,かつ天候による制限なしに単木毎の蒸散の詳細な測定を比較的簡便に行うことができる.そこで,本研究発表では,樹液流測定を用いて森林生態系からの蒸発散の評価を行う際の課題を示し,また,樹液流測定を実施することによって明らかになった東アジアの温帯林,熱帯林の蒸発散の季節変化と年々変動の実態について発表する.

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