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シンポジウム S05-4
近年、生態学・水文学において、同一のデータを多くの試験地で計測する、ネットワーク研究がはじめられつつある。しかし、ネットワーク研究において計測されるのは、計測の容易な古典的データであることが多いため、ありきたりのデータが無駄に積み上げられるだけではないかという心配があると思う。
水文学では、すでに長期にわたる流域試験が行われ、蓄積された降雨−流出データを活用した研究が行われている。本発表では、そうした研究の成果を紹介することによって、ネットワーク研究によって初めて可能になることを明らかにしたい。
本発表で紹介する研究は、広葉樹林と針葉樹林の年間蒸発散量の違いを調べたものである。これまで、欧米の研究成果をもとに、針葉樹林のほうが広葉樹林より年間蒸発散量が大きい(それゆえ、水資源的に好ましくない)とするのが通説だった。しかし、日本の大部分を占める夏雨気候下において、この通説が当てはまらないとモデルから予測された。幸いわが国では、林種転換が行われた流域における数十年の降雨−流出データが複数の流域で得られた。そして、そうしたデータによって、予測の妥当性が確認された。
このように、近年のプロセス研究の進展によってモデルによる仮説作成が可能となり、その仮説の検証に古典的な降雨−流出データが使われるようになっている。そして、古典的データが数多くの試験地で蓄積されていたことによって初めて、十分な信頼性を持った結論に行き着くことができている点が注目に値する。なお、当日の発表では、ネットワーク研究において今後検討されるべきテーマ、適切なデータ管理についても提案を行う予定である。