| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S06-3

阿蘇の草原植物の現状と花野再生

瀬井純雄(NPO法人阿蘇花野協会)

阿蘇の草原には、ハナシノブやケルリソウ、チョウセンカメバソウ、タマボウキ、ツクシクガイソウなど、国内では阿蘇だけに自生する貴重な植物が数多く生育していて、植物分類地理学上の重要地域として古くから著名である。

阿蘇の草原植物は、採草や野焼きなどの人々の営みと自然の力が釣り合った形で維持されてきた半自然の草原が主な生育地である。この草原は、昭和40年代頃まで農業の基盤として不可欠のものであり、農村の暮らしと深く結びついて長年にわたって維持されてきた。しかし、農業の近代化による機械化や化学肥料の利用、畜産業の低迷などによってその存在価値が減少し、草原の存在そのものが風前の灯火の状態になっている。草原が失われることで、阿蘇の草原植物は生きるための場所を失い絶滅の危機に追い込まれている。

このような状況の中、消えゆく阿蘇の草原植物を未来に引き継ぐため、平成16年NPO法人「阿蘇花野協会」を設立し、平成18年10月までに約10haの土地を取得した。ここは「種の保存法」により特定国内希少野生動植物種に指定されているハナシノブをはじめ、ツクシトラノオ、ヤツシロソウ、ハナカズラなど20種を超える絶滅危惧植物が自生し、ヒメシロチョウやゴマシジミなど国内他地域では絶滅寸前の草原性の蝶たちも多数生息していた場所である。しかし、杉や檜の植林地となったり、草原としての維持管理が10年以上放棄され藪化したりして、草原植物はほとんど見られなくなっていた。

平成16年3月以来、防火線づくり、野焼き、草刈り、草集めなど、昔通りの維持管理作業を会員のボランティアで毎年行ってきた。その結果、短期間の間にユウスゲやツクシマツモト、ヒメユリなどが群生する「花野」が再生しつつある。

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