| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S06-4

刈り取りは希少植物サクラソウ、ケルリソウの個体群増大に有効か?

小路 敦(九州沖縄農業研究センター)

高度経済成長期以前、日本列島の面積の1割以上を占めていた半自然草原だが、現在、まとまった面積で本来の半自然草原が残存するのは、九州・阿蘇地域のみとなっている。阿蘇地域では、「自然再生推進法」に基づき「阿蘇草原再生推進協議会」が設立され、草原の保全と再生に向けた様々な取り組みが行われている。

阿蘇の草原では、古来、刈り取りによって優占種が適度に維持されることにより、大陸系遺存種等の希少植物も維持されてきたとされる。刈り取りは、確かにススキをはじめとする優占種を減少させ、出現種数の増大には効果的であることが、これまでの調査でも示されてはいる。しかし、絶滅が危惧される植物の保全・個体群増大に対しての効果については、さらに詳細な解明を行う必要があろう。

演者は、ESJ53において、刈り取りが植生や希少植物に及ぼす効果について、処理1年後の結果を報告したが、その後も長期的・継続的にモニタリング・効果の検証を実施している。3年間にわたる調査の結果、サクラソウの場合、7月刈りにより、総ラメット数は増大する傾向であったが、9月刈りでは開花ラメット数(5%有意)・総ラメット数(0.1%有意)とも減少した。一方、ケルリソウの場合、9月刈りにより、開花個体数・全個体数とも増大する傾向であったが、7月刈りにより開花個体数(5%有意)・全個体数(0.1%有意)とも減少した。

このように、時期によっては、刈り取りは希少植物の個体群増大には逆効果であることが示された。また、極端な優占種の減少は、風散布性の帰化植物の侵入を助長することも見えてきた。草原性希少植物保全の手法として刈り取りは有効であろうが、「諸刃の剣」であるとも言えよう。今後、刈り取りによって引き起こされる環境変異、例えば、刈り取りの際の踏圧による土壌硬度の増大や、火入れ時に土壌へ還元される灰の減少によるpHの低下などとも関連づけた解析が必要であろう。

日本生態学会