| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S06-5

火入れ草原を題材とした環境教育の試み−広島北部,雲月山での取り組み −

白川勝信(芸北 高原の自然館)

火入れによる草地管理を環境教育の題材として用いるねらいは,山焼き技術の継承と後継者の育成である.半自然草地における生態系保全には,人が関わった生態系システムの解明に加え,そのシステムを維持していくための社会システムの再構築が必要である.特に,過疎化・高齢化が進む農村地域において半自然草地を維持するシステムを構築することは,生態系保全を考える上で緊急の課題であると言える.

古くから農耕用の牛や軍馬の放牧地として利用されてきた広島県北広島町雲月山では,1960年ごろまでは春先の山焼きよる草原管理が行われていた.その後,放牧の必要が無くなるとともに,山焼きは途絶えた.1990年代には広島県が行った観光キャンペーンの一環で,観光イベントとしての山焼きが再開したが,天候に左右されるために地元への負担が大きかったことから,1997年を最後に山焼きは途絶えてしまった.このため,雲月山には絶滅危惧種を含む草原生植物が多く残るものの,谷部や斜面下部から樹木の侵入・生長による森林化が進行していた.一部の地域住民には山容の変化を憂慮する声があったものの,山焼きを地域の行事として再開することは,過去の経験から困難であった.そこで,高原の自然館ではボランティアの協力による山焼き実行を提案して,2年間をかけて町役場や消防などと調整を取ることにより,2005年に山焼きが再開されることになった.このとき,自然館からは,小学校と連携しながら山焼きを題材とした環境教育を進めることを提案した.小学生たちは山焼きの日にはボランティアに混じって作業を行い,山焼きを体験する.その後も,春の遠足にはじまり,夏から秋にかけて年5回ほど,野外での観察を行う.

本発表では,雲月山における現在の草地管理体制について紹介し,そこに小学生が加わることによる様々な効果について話題を提供したい.

日本生態学会