| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S06-6

草原再生を支える社会システムの解析

小串重治(徳島大学)

二次草地は「人とかかわりをもって維持されてきた二次的な自然」である.その再生のためには,維持・管理計画手法などに関する生態学的検討以外に,二次草地の管理を行う人的資源の確保を含め,社会システムを再構築する方策を検討する必要がある.

二次草地の持続的な利活用を目指している西日本の10地区における,「管理主体」,「管理動機」に着目したヒアリング調査結果から,草地の管理システムは次の4タイプに大別できた.すなわち,1)草地の管理作業自体が地域コミュニティ機能の維持につながることに価値が見出されている「伝統的コミュニティ維持タイプ」,2)採取される茅の経済利益の配分に作業価値が見出されている「自立経済・経営タイプ」,3)公的支援に基づき共同管理されている「公的支援依存タイプ」,4) 多様な参加主体がそれぞれ草地管理に価値を見出しつつ,連携・調整により共同管理している「緩やかな連携・調整タイプ」の4タイプである.

1)と2)は農山村の過疎化・高齢化による後継者不足の課題,3)は行財政の課題を内包しており,これらの課題克服は難しい.二次草地の再生にむけて最も実現可能な社会システムは4)タイプである.そして,その持続的な運営のためには,第一に,「二次草地の有する多面的な生態系サービスに価値を見出す多様な参加主体の存在」,第二に,「二次草地の再生事業に協力する地域コミュニティの存在」,第三に,各参加主体が求める生態系サービスの享受を可能とする,共同管理体制づくりを推進する「コア組織の存在」が必要である.また,コア組織の事務局的機能を恒常的に維持していくために,草地管理と貨幣経済価値を結びつける体制もあわせて整備する必要がある.

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