| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S07-4

晴れ、ときどき、クロウミツバメ

川上和人*(森林総研),鈴木創(小笠原自然文化研究所)

南硫黄島は、小笠原諸島に属する海洋島で、本州から約1,300km南に離れた位置にある。この島に人間が定住した記録はなく、ほぼ原生状態で生態系が維持されている。太平洋の多くの島では、ノネコやクマネズミなど様々な外来生物により生態系が影響を受けており、人為的影響がほとんどない島は非常に珍しい。

この島の鳥類・哺乳類相は、1982年に概要が調査されており、シロハラミズナギドリを始めとした6種の海鳥、アカガシラカラスバト等の6種の陸鳥、唯一の哺乳類であるオガサワラオオコウモリの生息が確認されている。特に、クロウミツバメの現存する唯一の繁殖地であることや、諸島内で激減しているオガサワラカワラヒワの生息地となっており、小笠原諸島の鳥類の保全上非常に重要な位置を占めている。

しかし、これまでに個体群サイズの推定や、他個体群との類縁関係の評価などは行われていない。また、その後この島において脊椎動物相の調査は行われておらず、ネズミ類などの外来種侵入状況も含めて現状は不明であった。

このような背景から、本研究では南硫黄島の鳥類、哺乳類相調査を行った。その結果、海鳥としてはシロハラミズナギドリ、アナドリ、オナガミズナギドリ、セグロミズナギドリ、クロウミツバメ、アカオネッタイチョウ、カツオドリの生息が確認された。南硫黄島におけるセグロミズナギドリの生息は今回初めて記録された。本種は小笠原の固有繁殖亜種だが、戦後は父島列島東島以外に繁殖地が見つかっていない。陸鳥としては、前回同様に6種の生息が確認された。このうち、ウグイス、カワラヒワは小笠原群島産と同一亜種とされるものの、形態的な差が見られた。哺乳類としては、オガサワラオオコウモリの生息が確認され、またネズミ類の侵入は確認されなかった。

なお、これらの結果は、東京都及び首都大学東京により行われた総合調査の成果の一部である。

日本生態学会