| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S07-5

南硫黄島における陸産貝類相

千葉聡*(東北大・生命)

形成が古い小笠原群島の陸産貝類相が、高い多様性と固有性をもつことと対照的に、新しい時代に形成された火山列島の陸産貝類相は、極めて貧弱で固有性に乏しい−これが南硫黄島も含めた火山列島の陸産貝類に対する従来の見方であった。実際、南硫黄島からは25年前の学術調査では4種の陸貝しか発見されておらず、火山列島全体でも6種が記録されるに過ぎない。しかし25年前の調査では、実は陸産貝類相の解明を目的とした調査は行われていないため、南硫黄島の陸産貝類相の実態は不明であった。最新の調査結果は、火山列島の陸貝相に対する従来の見方に大きな変更をせまるものとなった。南硫黄島には実際には少なくとも13種の陸産貝類が分布し、そのうち4種が未記載の南硫黄島固有種と考えられる。面積を考慮すると、この種数は小笠原群島各島の陸貝の種数とほぼ同レベルである。特に山頂部の雲霧林において最も高い種多様性が認められ、一方、海岸部には陸産貝類は全く見出されなかった。今回の新記録種には、同種ないし近縁の種が伊豆諸島には分布するが、小笠原群島には分布しない種が含まれていた。また本来石下や落葉下に生息する種が、樹上にのみ生息していたほか、他地域では海浜に生息する種が山頂の雲霧林にのみ生息していた。なお過去に3種が記録されている北硫黄島との共通種は1種だけであった。以上の知見から、火山列島の陸産貝類は本来決して貧弱なものではなく、小笠原群島にはない特異な要素を含む独自性の高いファウナであると考えられる。また歴史の新しさに比して大きな進化的変化を、ごく狭い地域内で生じた可能性が示唆される。なお、これらの結果は、東京都及び首都大学東京により行われた総合調査の成果の一部である。

日本生態学会