| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S07-8

総括 ”小笠原の自然再生・世界遺産登録へ向けて、本調査の成果が貢献できること”

可知直毅*(首都大・理工)

2006年11月、環境省により小笠原諸島世界自然遺産候補地科学委員会が設置され、小笠原諸島の自然環境が世界自然遺産としてどのような価値をもつかについて検討した。その検討結果をふまえ、2007年1月29日、日本政府は小笠原諸島を世界自然遺産候補地として暫定リストに登録することを決定し、ユネスコに通知した。

小笠原の自然環境の世界自然遺産としての第一の価値は、海洋島である小笠原の生態系と生物多様性の独自性にある。ところが、この独自の生態系や生物間相互作用が、人間活動によって様々な影響を受けている。特に外来種問題は深刻である。小笠原は、固有種の宝庫であると同時に今や外来種の宝庫となっている。侵略的外来種は、生態系の中でその生態的地位を確立しており、外来種を駆除することは新たな生態系攪乱につながる。その中で、南硫黄島は人間の影響が事実上およんでいない小笠原で唯一の島である。そこでは、海洋島での本来の生物間相互作用や生物進化がみられるはずである。

今回、東京都と首都大学東京が実施した調査で、外来種のネズミ類が南硫黄島に生息していないことが確認された意義は大きい。南硫黄島は、小笠原の自然環境の独自性を直接証明できる最適なフィールドである。この調査成果が、南硫黄島の自然環境の科学的価値を高め、小笠原諸島全域の自然環境に対する理解を深めることに貢献することは間違いない。なお、現時点での主な成果は、首都大学東京小笠原研究委員会が発行するOgasawara Research No 33(FY 2007)の特集号として発表予定である(問い合わせ先:kachi-naoki@c.metro-u.ac.jp)。

本調査は、東京都から首都大学東京への委託研究(代表者:可知直毅)および科学研究費による研究(代表者:加藤英寿)として実施した。

日本生態学会