| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S10-3

近代有機農業技術下の水田生態系の変容とその持続可能性

嶺田拓也(農村工学研究所)・日鷹一雅(愛媛大・農)

「有機農業」とは,化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として,農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業(有機農業推進法(2007)より)であり,その生産方法や使用可能な資材などは現在,日本農林規格(有機JAS)にて,事細かく規定されている。例えば,ほ場における有害動植物の防除方法としては,殺虫剤や除草剤など化学的資材を使用せず,耕種的防除,物理的防除,生物的防除,またはこれらの組み合わせのみにより防除を行うことができるとしている。また,有機農業では「地球上の生物が永続的に共生できる環境を保全すること」(日本有機農業研究会規約より)を目的とし,多様な生物で構成される生態系の形成により,自然が本来有する機能を最大限活用した健全な作物の育成や病害虫等の抑制が期待される。しかし,現実的には有機農業によって低減させるべき「環境への負荷」とは,主に土壌・水環境を念頭においたものとなっており,生物多様性を含めた農生態系内外への生物群集への配慮はまだまだ希薄なものといわざるを得ない。実際の有機農業技術において,全国の有機稲作JAS農家の30%以上がアイガモやスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)などの水田生物群集に及ぼす影響が懸念(日鷹ら2007)されている外来生物を含む動物を積極的に雑草防除に利用している(農林水産省統計部2003)。

本報告では,「アイガモ農法」「ジャンボタニシ農法」「草生マルチ」「ふゆ水田んぼ」など近年,多くの有機農業技術が提案され,各地で普及している水稲栽培を例に,水田生態系を構成している生物群集に対する影響評価の重要性を指摘するとともに,近代の有機農業技術がもたらす水田生態系の変容を生産基盤である農地の持続性の観点から論じたい。

日本生態学会