| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S11-3

イノシシ被害の発生と集落特性ー島根県を事例としてー

作野広和(島根大・教育・共生社会教育)

イノシシによる農作物被害はイノシシの生態や行動および自然環境等の影響を強く受けており,これらについては一定水準の研究蓄積がある。一方,被害を受ける農家や農地,あるいはそれらを包含する農村とイノシシ被害との関係についてはこれまで十分な研究がなされてこなかった。そこで,本研究ではイノシシによる農作物被害の実態を農村集落単位で把握し,イノシシ被害の発生と集落特性との関係について明らかにした。

(1)事例対象集落においてイノシシによる農地への被害状況を調査したところ,圃場整備が行われていない小規模・不整形な農地において被害が多発していることが明らかになった。また,防護柵の設置状況を調査したところ,不完全な設置箇所があり,イノシシ被害を誘発していることが明らかになった。さらに,イノシシの痕跡についても調査したところ,イノシシの住みかである森林から農地への侵入ルートがある程度固定されていることも明らかになった。

(2)農業共済による被害申請に基づき,イノシシによる水田への被害状況を島根県全域において把握した。この結果,被害は島根県隠岐地方および島根半島を除くほぼ全域に及んでいることが明らかになった。また,出雲地方中央部,石見地方中央部などイノシシ被害の核心地域も明らかになった。

(3)イノシシ被害状況と集落属性(集落人口,高齢者比率,耕作放棄地率等)との関係を比較するため,農林センサスに基づく農業集落単位で属性を提示し,被害地点との関係解明を試みた。研究の結果,両者には明確な相関関係は認められないものの,耕作放棄地の多い集落ではイノシシ被害が多発していることが解明された。

(4)GIS(地理情報システム)を用いて,国土地理院発行の25,000分の1地図画像の上にイノシシ被害地点をプロットした。分析の結果,地形条件の悪い農地においてイノシシ被害が多く発生していることが明らかになった。

日本生態学会