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シンポジウム S11-4
本シンポジウムのコーディネータから与えられたテーマは、中山間地域農林業の変貌と地域資源管理の現状と将来予測を行うことである。筆者はこれまで九州の山間地域をフィールドとして集落農林業の構造変化と資源管理問題について研究を行ってきた。そのため、報告では、第一に、戦後の農林業の構造変化と地帯別の特徴を既往の研究や統計で概観し、第二に、九州山間地域における1985年以降の農林業構造の変化について各種統計を用いて明らかにする。第三に、宮崎県諸塚村と大分県日田市上津江地区を事例として集落単位の年齢別人口動態を分析し、「限界集落」化と地域資源管理の実態並びに地域での対応策について紹介する。
九州の中山間地域は、高度経済成長期に挙家離村による急激な過疎化が進行した中国地方と同様、耕地や林地面積は狭隘であるものの、労働市場から遠く、更に様々な農林産物生産による複合経営の比率が高く、自家労働力で森林管理を行う農林家比率が非常に高い地帯だと位置づけられてきた。
しかし、九州の代表作物であった乾椎茸が1985年以降、中国からの輸入急増による壊滅的な状況に至ったことが象徴するように土地利用型作物の経営条件が悪化し、山間集落の人口扶養力は大きく低下した。ハウス野菜や花など集約作物導入の試みもあったが、バブル経済崩壊はそうした「高付加価値」製品の販路開拓を難しくし、更に、集約作物への特化は農林地全体の保全への労力投下を減少させた側面もある。2000年以降は町村合併、台風災害、小中学校の統廃合等を契機に離村と高齢化が加速しており、農林地の放棄や道路の維持管理作業の困難化が進行している。更に、イノシシの他、シカやサルの獣害が地域住民の資源管理意欲を低下させている。しかし、こうした事態は一つの町村内でも一律に発生しているわけではなく、都市交流などを契機として新たな地域資源管理の仕組みを構築しようとする取り組みも存在する。