| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
シンポジウム S11-5
野生動物による被害への対策は,「進入防止柵の設置を含む環境管理」,「個体数管理」,「被害を受けない作物への転換」,「被害が出る地域からの移出」の4つが基本となる.重要な点は,対象とする種の特徴によって取り組むべき対策の優先順位が異なることである.農作物被害だけではなく林業被害や森林生態系の撹乱を引き起こす可能性が高いシカ等では,「進入防止柵の設置を含む環境管理」と併せた「個体数管理」の実施が主に必要となる.一方,林業被害や森林生態系の撹乱等がほとんど報告されないイノシシでは,農作物被害対策が最重要課題であり(ただし,生態系保全の観点では,その個体群動態が森林生態系に与える影響を把握する必要がある),これは「進入防止柵の設置を含む環境管理」の実施によって達成できる.また,本種については研究も進められ,効率的に農作物被害を防ぐ技術も確立している.それにもかかわらず,イノシシによる農作物被害が発生している地域は未だに多い.こうした地域では技術的課題以上に,「現場(農業集落)」や「行政」,「議会」などでの「情報」,「人材」,「資金」の不足が大きな問題となっており,日本の自然環境や農業,地域社会に関する長期的展望の欠落が,その背景にある様に思われる.
今後100年程度の間に日本の人口が半減するとの報告がある.実際には,中山間地域における人口減少は既に始まっており,そこで自然環境の回復が進んで野生動物との軋轢が生じている.人口動態予測から見る限り,自然環境が回復する地域は今後さらに増加すると考えられるが,現状のままでは軋轢も増加する.自然環境や農業,地域社会についての将来像を明確にし,どの様に自然との折り合いを付けるか判断することが必要だろう.