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シンポジウム S13-3
魚類の繁殖様式は卵生と胎生に大別され、胎生は卵生から進化したと考えられている。胎生の成立には雄が雌に精子を受け渡す交尾行動の成立と雌体内で正常に胚発生する条件の成立が必要と考えられる。卵生のカジカ上科魚類(以下カジカ類)には交尾をしない種と交尾をする種が存在する。交尾種では精子と会合(卵が精子と接すること)した卵は卵巣内で受精せず、体外放出後に起きるため(体内配偶子会合型)、体内で受精・胚発生する胎生魚とは大きく異なる。本発表では交尾をしないカジカ類に焦点をあて、カジカ類における交尾成立と体内配偶子会合型が進化した意味の一考察を試みたい。
非交尾のヨコスジカジカの精子は精液中で運動を開始しているだけでなく、卵巣から分泌されるゼリー状の卵巣腔液中で活性が高く、交尾型カジカと類似していた。また、ヨコスジカジカの卵は卵巣腔液とともに一つの塊として産み出され、その間、雄は間欠的に放精した。産卵後の卵巣を調べたところ、卵巣内に残留した多くの卵が受精していた。これらの受精卵は産卵中に卵巣腔液を伝って卵巣内に精子が侵入し、いわば「偶発的な交尾」によって受精したものと考えられ、カジカ類の交尾が配偶子の生理的特性を背景に成立した可能性が考えられた。一方、卵巣内の受精卵は心臓の拍動が観察されるなど発生後期のものもみられたが、脊椎の湾曲や頭部の欠損などの奇形を生じていた。魚類の胚発生に影響する溶存酸素に注目し、卵巣内の酸素濃度を測定したところ、体外受精魚の正常な胚発生を保障するとされるレベルを下回っており、これが奇形化の一因と考えられた。さらに、カジカ類では交尾種でも卵巣内の酸素濃度は胎生魚よりも高いことが示された。そのため、交尾型カジカ類の体内配偶子会合型は胚を維持するには不適な卵巣内で未受精の会合卵を保持するうえで有効なものと考えられた。