| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
シンポジウム S13-5
交尾の本来の機能は、オスからメスへの精子の移動である。しかし、メスにとって適応度上の交尾の意義は、精子の受け取りだけにとどまらない。交尾はさまざまなメカニズムを通してメスの繁殖率や生存率に影響を及ぼし、その影響は正であったり、負であったりする。Nature誌に発表されたヨツモンマメゾウムシにおける研究結果(Crudington & Siva-Jothy 2000)は、交尾がメスに物理的損傷による適応度上の不利益をもたらす代表的な例となっている。それによると、オスの交尾器の先端部に多数のトゲが生えており、このトゲが交尾中にメスの生殖管に傷を付ける。2回交尾させたメスでは、1回しか交尾させなかったメスよりも、傷の面積が増大し、生存率が低下する。この不利益に対する対抗手段として、メスはオスを後脚で蹴って、交尾を早く終らせようとする。この研究結果は、交尾をめぐる性的対立が表面化した現象の実例を提示するとともに、多くの疑問−オスはなぜメスに傷を負わすのか?オスの交尾器のトゲはなぜ進化したのか?この傷は実際にメスの適応度減少の原因であるのか?不利益を被るにも関わらずメスが多回交尾を行うのはなぜか?など−を生み出した。そして、これを動機として本種の交尾行動に焦点を当てた多くの研究がなされている。それに加えて、近年、アズキゾウムシなどの他の同属種でも交尾がメスの適応度に及ぼす影響が研究されている。その結果、本属のマメゾウムシ種間では、オスの交尾器の形態も、メスの適応度に対する交尾の影響も異なることが明らかになっている。本講演では、マメゾウムシにおける交尾行動に関する最近の研究結果をレビューし、交尾行動とそれに関わる形質の進化についてどこまで理解できたのか、そして今後の課題は何であるのかを明らかにしたい。