| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S13-6

オサムシの交尾行動:攻めと守りの多様性

高見 泰興(京大・理)

雌が複数の雄と交尾する動物では,受精をめぐる雄間の精子競争が生じる.精子競争の下では,ライバル雄の精子を排除したり,雌の再交尾を防いだりすることで,雄は自らの精子の受精率を高めることができる.しかし,精子競争における攻撃と防御は拮抗する関係にあるため,その進化動態は単純ではないだろう.本講演では,オサムシ類に見られる精子競争の進化的帰結について,2つの対照的な例を紹介する.

アオオサムシの雄は交尾後に雌をガードし,その間に精包から受精嚢へ精子が移動する.しかし雌の再交尾率は高く,精包は第2雄によって置換されるため,父性の獲得は第1雄の交尾後ガードの長さ(=交尾間隔)に依存して決まる.つまりアオオサムシでは,精子競争における攻撃(精包置換)と防御(交尾後ガード)がまさに拮抗している.アオオサムシを含むオオオサムシ亜属全体を見渡すと,雄交尾器形態(精包置換に関与)と,交尾時間や交尾後ガード時間(防御に関与)に著しい多様性が見られる.両者は負に相関して進化することから,精子競争における攻撃と防御のバランスの変化が,オオオサムシ亜属における交尾器形態と交尾行動の多様化をもたらしたと考えられる.

クロナガオサムシの雄は,巨大な精包を雌交尾器内に形成する.精包は交尾栓として働き,ライバル雄の交尾を妨げる.しかし多くの場合,交尾栓は24時間以内に雌によって除去されてしまう.交尾栓の除去は雌が再交尾しやすくなることを示唆するが,雄は雌の交尾拒否行動を誘導することでこれを回避している.つまりクロナガオサムシでは,精子競争における防御(交尾栓と拒否行動の誘導)が卓越しており,精子競争リスクは一貫して低く抑えられている.このような交尾栓はオサムシ類全体(オオオサムシ亜属と近縁群を除く)に広く見られ,それらの種は概して交尾時間やガード時間が短く,シンプルな雄交尾器を持つ.

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