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シンポジウム S14-3
ササ類は一斉開花する性質を持った一回繁殖型植物と言われており,開花までの期間が非常に長い.これに加えてクローン構造の把握が困難であるため,開花個体群のクローン構造を把握し,一回繁殖性について検証されることはなかった.しかしササ類の特異的な繁殖特性を考察するには,一回繁殖性の検証が不可欠である.本研究では,北海道大学苫小牧研究林におけるクマイザサ個体群(約21ha)のクローン構造と4年間の開花パターンから,クマイザサの繁殖特性について考察した.
AFLP法でクローン識別を行った結果,個体群内には少なくとも5つのクローンの存在が確認された.一方,開花したラメット(稈)は全て同一クローンであり,面積は3ha以上に及んだ.しかし,同一クローン内の稈は全て開花せず,大別すると,全ての稈が開花していない部分,開花稈と非開花稈が混在している部分,ほとんど全ての稈が開花している部分が同一クローン内に同時に存在した.ほとんど全ての稈が開花した部分のうち,開花後に全ての地上部が枯死した部分もあったが,翌年以降も生残する稈がある部分もあった.一斉開花後に地上部が枯死した部分の地下茎からは,翌年以降に新しい稈や花序が再生する現象がみられた.開花する部分は年毎に変化したが,同一クローンでも4年間でまだ一度も開花していない稈を持つ部分も存在した.また稈の生理的統合を調べるため,13Cを用いてトレース実験を行った結果,非開花稈から地下茎で繋がった開花稈へ13Cが転流していた.
これらのことから,クマイザサは一斉開花はするものの,必ずしも一回繁殖型の生活史を有していないことが分かった.この現象が一般的なものかどうか言及するためには,他地域に存在する同種との比較あるいは他種との比較研究の進展が不可欠であろう.
共同発表者:大西尚樹(森林総研関西)・日野貴文・日浦勉(北大苫小牧研究林)