| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S15-1

2つの超長期シナリオ:里山保全と里山撤退作戦

松田裕之(横浜国大・環境情報)

日本の生物多様性国家戦略の第2の危機(Underuse)では過疎は懸念材料だが、本来、人口密度が少ないほうが環境負荷は少ないはずである。この認識から超長期ビジョンを組み立てる。

日本の国土の生態系管理には、以下のような特徴がある。

1.島国であり、大陸より小規模なので管理しやすい。

2.島全体が一つの政府なので河川上流も含めて統一した管理ができる。

3.国土の多くが多雨、森林、山地であり、先進国の中で頑健な生物多様性をなお維持している。

4.河川が短く洪水氾濫域に人口と資産が集中している。

5.人口過密だが既に人口増加は止まり、これ以上の土地開発は必要ではない。

6.経済競争力が高く自然保護に努力する余裕がある。

7.公共投資によって過疎地の巨大開発が繰り返されている

8.人材が豊富であり、あらゆる分野から環境志向の研究が進められている。

9.国民の衛生水準と健康志向が高い長寿国である。

台湾と比較してみると、上記の多くの特徴を共有しているが、台湾は九州程度の面積に2000万人が生活しながら、東海岸は急峻で自然海岸が残された過疎地で、西海岸はほとんど人工海岸で人口が密集している。東側は現在の自然を保全し、西側は重要な湿地などの復元を計るという明確な方針が立てられる。

河口域に都市を残す流域と漁村のみを残す流域に分け、上流域の里山・奥山を含めて二つの方針を使い分けてもよいだろう。すなわち、里山「撤退」地域と里山保全地域を作ればよい。当然、自然災害のリスク、住環境の定住度も両者で異なる。流域ごとのモザイク構造を維持すればよい。

問題は撤退する流域を決めることである。そのためには、行政区画を流域圏全体を含むような道州制に変えることも有効であろう。

日本生態学会