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シンポジウム S15-2
保全と撤退の二つのシナリオについて、林業技術者の立場から意見を陳べる。まず前提として、現在ある里山林は、単なる破壊と放置の結末ではなく、人と自然の長期の相互作用の結果であることを示したい。伝統的な里山利用は、一定の撹乱様式を持ち、里山林は、それぞれの撹乱様式に対する個体群の応答により、特有の種構成や林分構造を形成しながら、ランドスケープの中に序列されていることを、北上山地のカンバ林や、琵琶湖畔のコナラ亜属林を例に紹介する。
さて、このような、人との関わりを持つ森林の放置は何を生むだろうか? 里山を代表するコナラ亜属二次林では、放置され高林化する中で、多くの林床植物は衰退し、遷移が進んだ。そして、近年拡大しつつあるナラ類の集団枯損は、今度は高林化した林分の存続を脅かし始めた。ナラ林以外に目を向けても、マツ枯れの第二波、竹林拡大などが重なり、今後、里山の森林はどうなるのか、その予測は難しい。自然に委ねても、おとなしく何らかの安定に収まってくれるとは限らないのだ。
では、保全は可能か? 原則的には、伝統的な短伐期管理に戻すのが良い。しかし、長く放置され大径化したコナラは萌芽能力が低下してしまっている上に、今では更新しても獣害を受けることになる。社会経済的にも、国土の二割前後を占める里山林の保全作業を誰が担うのか? ボランティア頼みだけではすまないだろう。
保全も撤退も難しい中で、我々の取れる道は、以下のようなものではなかろうか。ア)状況は悲観的でもできることはしておく。イ)観察と予測は行う(放置の場合も、その結末を引き受ける覚悟を)。ウ)中長期的には、過去の里山管理より簡易で、ある程度の保全も期待できる新たな里山景観を模索し、それにシフトさせる。
結局、我々の社会のあり方、生き方の問題であるという理解が必要であり、その点では、生物多様性以上に、それを支える文化多様性の役割を重視したい。