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シンポジウム S15-4
日本農業の持続可能性が次の3つの側面から問われている。第1は、社会的・経済的条件である。自給率が低迷し、農業生産が後退する中で、日本農業を支える担い手が確保されていない。第2は、物質循環の側面である。近代農法は環境負荷を拡大させてきたが、これをいかに低投入かつ生態系と調和する持続可能な方式へと転換できるのかが問われる。第3は、中山間地域における資源管理の問題である。過疎化と高齢化が深刻な多くの中山間地域では、担い手の減少や集落崩壊という問題に加えて、野生動物による農作物被害や、地滑りなどの自然災害が拡大している。里山の超長期戦略を策定する際には、これらの「市場の失敗」と「政府の失敗」に注目したい。
里山の保全を、いかに地域再生や経済活性化につなげられるのかがポイントとなる。とくに水田の生物多様性や農村景観が、長年にわたる農業の営みや人々の暮らしを通して維持されてきた点に注目したい。この基礎条件が大きく変化した今、農業・農村システムの抜本的な見直しと農業・農村政策の変更は不可欠であろう。
そこで、耕作放棄地や遊休水田などの未利用資源の有効活用策を地域ごとに具体化したい。すべての里山資源を保全管理するのが不可能ならば、「再線引き」による用途の見直し、未利用農地の環境転用なども十分に考慮に値する。
他方、都市住民の農業・農村ニーズ、価値観の変化にも注目したい。補助金に頼らずに、いかに農業・農村を活性化させられるのか、模索すべきであろう。都市と農村との上下流連携を図りつつ、安全・安心な農産物を提供したり、教育面や心の癒しを提供するなど、多様な価値の創造は有効と判断される。その際、環境価値を数量的に評価する作業は、重要な前提となる。政策的には、中山間地域を対象とする直接支払い制度を、農林業の多面的機能の発揮あるいは生態系サービスと関連付けた「環境支払い」として拡充すべきと判断される。