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シンポジウム S15-5
農的管理が放棄されたときの景観スケールにおける中山間地域の植物群落及び種の多様性の変化について考察した.丘陵地が卓越する関東周辺の4地域(千葉県匝瑳市,東京都町田市,栃木県茂木町,福島県白河市)を対象に,小集水域毎に得られたデータを用いて検討した.各地域で確認された植物群落の多くは,人間が利用する土地利用の存在によって成立していると考えられた.各地域で希少とされる種は,水田や雑木林,植林地,草地に成立する群落の構成種に多く含まれた.管理が放棄された場合,水田では成立しうる群落数は増えるが,種数は減少し,また放棄前後の種組成の変化が大きくなると考えられた.雑木林では植分あたりの種数が減少するだけでなく,その地域での希少種が減少する傾向があった.すべての水田が耕作放棄されてしまった小集水域では,耕作が行われている水田のある小集水域と比較して,80%の種数,60%の植物群落数と供に低くなる傾向があった.地域間でフロラを比較した結果,総出現種数1083種のうち,4地域で共通であった種は357種(各地域の種数の50%強)となった.地域のフロラは各地域での独自性を保ちつつ,気温要因の傾度に従って種の入れ替わりがあった.地域間で種の入れ替わりが大きいのは雑木林や植林地の植物群落であり,これらの管理の放棄による種組成の変化は地域間の種多様性の減少に大きな影響を与えると考えられる.人間が中山間地から撤退すれば,人間が利用する土地利用とそれに対応する管理とに依存した種が消滅し,景観スケールでの植物の種多様性は減少すると考えられる.今後,小集水域における多様性構造のモデルを発展させることによって,広域の流域スケールの多様性構造の変化予測につなげていくことが可能であると考えられる.