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企画集会 T01-6
生息場所への移入率は、局所個体群の絶滅確率や局所群集構造に大きな影響を与える。移入率は、個体や種の供給源のサイズと生息場所への到達しやすさ(コネクティビティー)両方の要因によって決まる。近年、野外でのコネクティビティーの適切な把握において、生息場所以外のランドスケープ構造(マトリクス)に対する生物の応答(選好性や移動能力など)を考慮することの重要性が認識されるようになってきた。多くの動物は生活史ステージに応じて利用する生息場所タイプを変える。この形質は、マトリクスでの行動特性と同様に繁殖場所間の移動分散のあり方に影響を与えることが予測されるにも関わらず、コネクティビティーや移入率との関係性については、これまで十分な検討がなされていない。
本研究では、生活史ステージに応じて異なるタイプの生息場所を利用するという形質が生物の繁殖場所への移入率に与える影響を把握することを目的とした。そのために、幼虫は水域環境を、成虫は樹林などの陸域環境を利用するトンボ目昆虫を対象にして新たに多数作られた水域への移入を予測するシミュレーションモデルを構築し、(1)トンボが水域のみを利用すると仮定した場合と(2)水域と樹林両方を利用するとした場合のどちらが実際に野外で観察された移入パターンをより良く再現できるかを検討した。その結果、種によってどちらの仮定をとったモデルの予測力が高くなるかが変化することが明らかになり、その違いは種の樹林利用性の違いによって説明できることが示唆された。